「プリンセスメゾン」池辺葵

大人になってから新しい漫画を読むということをあまりしていなかったけれど、去年Twitterで知った「プリンセスメゾン」という漫画は気になって買い揃えました。あの時、読むことを決めた自分の直感は最高に正しかった。

東京で一人暮らしをする女性・沼越 幸26歳(通称:沼ちゃん)がマンションを購入するお話。マンションとか持ち家とか、実際のところあまり興味はなくて、人生何があるかわからないし、とりあえず賃貸でいるほうが気楽なんじゃないかなーと思っているタイプなので、マンション購入の話題には縁遠いところにいるのですが、それでもかなり響く漫画でした。主要登場人物がみんな柔らかい雰囲気で、傲慢だったり自分の意見を押し付けてきたりするような見ているだけで疲れるタイプが出てきません。それがこんなにも読み手を救うなんて、と穏やかさに泣けてきます。

沼ちゃん(居酒屋社員・独身)と不動産社員の伊達さん、その下で働く派遣社員の要さんと阿久津さんが主要登場人物。
仕事に励み、質素な生活を送りながらマンション購入資金を貯め、理想のマンションを探す沼ちゃんとそのお手伝いをする人々。その暖かくて思いやりがあるやりとりに、ものすごく元気と優しさをもらえます。特に沼ちゃんの確固たる意志と凛とした生き様は本当に見習うところばかり。

五巻の好きなシーンは、要さんがお見合いした相手に沼ちゃんのことを話すところ。

「孤独が心をむしばむことなんてないんだって、
彼女が教えてくれたんです。」

一人暮らしをしていると孤独を感じることは誰しもが経験することで、やっかいなことに孤独をこじらせてしまうと食い殺されてしまうんじゃないかなという闇が迫ってきてしまうけれど、孤独自体がそうさせているんじゃないんだなと考えさせられました。孤独というより、雑念や嫉妬などまとわりついてくる色んな気持ちが厄介なんです。
孤独は淋しさを生むかもしれないけれど、孤独がその人を汚すわけではないということ。孤独の定義は人それぞれだし、一人で生きていける強さがあればどこへだって行ける。そしていつか二人になった時の喜びが倍増するんじゃないかなって。沼ちゃんを見ていたらそんなふうに思います。だって沼ちゃん絶対幸せになれそうだから。

あとマンションを買うまでの物語ではなく、購入した後の沼ちゃんの変わった生活、変わらない本質との葛藤みたいなところに、この物語の奥深さを感じます。
家を買うことがゴールなのではなく、「家は家でしかないし」と言い切れてしまう沼ちゃんの冷静さ。そう言いながらやっと手に入れた自分の家をものすごく楽しそうに掃除するところがかわいい。

それから、この漫画には「すごいと思われたい」という人たちが登場しません。逃げ恥やカルテットなどで注目されたような目立たず慎ましやかに自分の生活を送る人々の物語。自分を大きく見せる人たちがいないことの妙な清潔さ。自分の正しさを押し付けたり、恣意的に人を傷つけるようなことをしない人たちの空気に、どうしたって癒やされてしまうのです。

「プリンセスメゾン」は今まで読んだどの漫画よりも文字数が少ないと感じます。人物も背景もシンプルだし、伊達さんの眼鏡の奥はいつも真っ白で、要さんにいたっては目しかないページもある。眉毛も鼻も口も描かれていないのに、その時の感情がものすごく伝わるという絵力。
行間や余白を楽しむという新しい楽しみ方が出来ました。
漫画読んで泣くなんて久々でびっくり。いいものです、本当に。

一人暮らしの女性に読んで欲しい漫画です。今住んでいる部屋がきっと好きになるし、どんな家が自分にとって理想なのか考えるのも楽しくなります。そっとしまいこんで忘れていた気持ちを思い出すことが出来て、読み終わるとすごく優しくなれる。自分が何を求めるか、描いた幸せを具現化出来るか、生きていく上で必要な正しさがたくさん詰まっています。

もうこんなに優しい人ばかりの世界じゃないのかもしれないけれど、それでも夢を見ることを諦めず上を目指していかなきゃ何も変わらないんだなと、今日も沼ちゃんに諭されました。
自分が居心地よく暮らしている人が一番強い。
次の六巻が出るまでに、私も何か変わっていたいと思います。

 

プリンセスメゾン(5) (ビッグコミックス)

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